子どもの頃に読んだあの本をまた読みたいけど、タイトルも書いた人もさっぱり思い出せない時、どうしたらその本にたどりつけるのでしょうか。

あの感覚をまた味わいたい、あの話を今読んだらどんな気持ちになるのか知りたい……。子どもだからこそ心が動いたのか、今でも揺さぶられる何かがあるのか。しかし子どもであったが故に細部を覚えてないわけです。記憶に残る断片情報をどう整理し、どこでどう調べたらあの本に再会できるのか。

実体験を元に図書館のレファレンスサービスの仕組みやSNSなどインターネットも活用した具体的テクニックを解説します。

タイトルが思い出せない本や漫画

2冊の本

ふとした瞬間によみがえる、昔読んだ文章や情景。

同じ感覚を味わうために、その本をもう一度読みたいのに、タイトルや著者が全く思い出せなくてもどかしい思いをしたことはないでしょうか。読書好きな方なら一度や二度ではないのではないでしょうか。

 

昔読んだ本を探したいのはどんな時か 
本棚にその本があることがわかっているのなら、本棚の前に立って探せば良いのですが、問題は探している本を所有していない場合です。

所有していなくても図書館で出会えて気に入った本は何度も借りられたので、置いてあった棚の風景も覚えているほど。自分の家にあるのと同じような感覚で何度も読んで楽しめました。

しかし問題は、小学校や中学校などで読んだ本、つまりもう簡単には再訪できない場所で出会った本なのです。

子どもの頃から「本の虫」だった私は、買ってもらった本だけでは到底読書欲が満たされませんでした。小児科に置いてあった本や保育園、学校の図書室や学級文庫にあった本もたくさん読んでいます。ですが、そういう場所で出会った本を探すのはとても困難なのです。 

 

あの時の追体験をしたい
インターネットが発達した現代は、図書館で借りた本の履歴も簡単にたどれます。

AmazonやKindleで買った本など、電子本でも紙の本でも自分が出会った本は簡単に検索できるので、検索で探すことはそれほど難しいことではありません。

ただし、全てがアナログだった時代は、記録を探り、本を探すのはなかなか難しいことでした。

「あの衝撃や感動をまた味わいたい」という追体験を求める熱意に動かされて本を探すのは、探偵仕事みたいでかなり楽しくもあります。つい最近、ずっと巡り会えなかった本に出会えた感動体験があったのでそれも踏まえてご紹介します。

記憶を探って検索に繋がる情報を思い出す方法

開かれた本

「イギリスの名探偵が主人公の推理小説」「少年と竜が冒険する話」など、簡単に検索できるキーワードが思い浮かんでいるなら探しやすくなります。

まずは、断片的な記憶を探って、検索できるくらいの特徴的なキーワードを洗い出す方法を具体的に紹介します。

 

出版された時期や読んだ場所を思い出す
まずは、その本を読んだ時期や読んだ場所を思い出しましょう。

当時の自分は何歳頃だったかを思い出し、西暦何年かを調べておきます。

また、読んだ場所が、図書館か図書室か本屋か、学級文庫か、誰かの家かなどの情報も重要です。本を手に取った場所、読んだ場所の情景が思い浮かぶならそこを手繰り寄せてみましょう。

また、だいたいの本のページ数、表紙にはどんな絵や写真があったか、何色だったかなどの印象、本の大きさ、装丁や挿絵の特徴も大きな手がかりになります。

さらに、童話か小説か伝記かなどのジャンル、文庫本か単行本だったかなども思い出せないか考えてみましょう。

子ども向けの本なら、ファンタジー、昔話、知育絵本、しかけ絵本、写真絵本、子どもの生活や世界を描いたもの、わらべうたなどのジャンルもあります。

 

内容、登場人物、キーワードを思い出す
一番手がかりになるのは、本を代表するオリジナリティのあるキーワードです。一番良いのは本のタイトルで、「○○物語」など、一部でも良いでしょう。同じタイトルの本はほとんど存在しないからです。または、主人公など登場人物の名前・あだ名がわかると大きいです。

「ホームズ」「ドリトル」「アン」「パディントン」「エルマー」なんて特徴的な名前が思い出せたらもう見つけたのも同然です。

その他は重要なアイテムや動物、印象的な台詞なども覚えていないか記憶を探ってみましょう。地名や国名など、場所も大きなヒントになります。架空の地名でも良いでしょう。物語の展開、結末(オチ)やどんでん返しも書き出してみると案外すらすら思い出せるかもしれません。 

 

思い出す方法は?想起力を知っている?
記憶を思い出す力のことを想起力と呼びますが、想起力を鍛えるとされている方法はいくつかあり、このような場合に参考になります。

かすかな昔の記憶を掘り下げて細部を思い出していくのに大事なのは、記憶したときとできるだけ同じ環境や状況を用意し、リラックスして、目を閉じてみること。そして、当時の思いに集中しつつ、ヒントとなるキーワードを思いつくかぎり書き出していくことです。寝不足は禁物で、クリアに頭が働く時に取り組むのもおすすめです。

書き出したキーワードを眺めていると、連想して思い出したことが出てくるはずなので書き加えましょう。記憶の連想に行き詰まったら場所や時間を変えてみるなど工夫するとさらに思い出しやすくなります。

そもそも人間はさまざまな物事を記憶し、何度も思い出し、連想しながら知的活動を行うものなのです。このような連想する力や想起する力も大事なので日頃から鍛えておくと良いかもしれません。

タイトルを忘れた本の探し方(Web編)

何もないテーブル

では、思い出せる限り書き出した情報をもとに本を探してみましょう。まずはインターネットを駆使してWebで検索する方法をお伝えします。

 

Amazonや書店で探す
すぐに手に入れて読めれば一番良いので、Amazonや楽天ブックス、紀伊國屋書店ウェブストアやhonto、オンライン書店e-honなどのウェブストア書店で本の検索を利用して探してみましょう。

Googleブックス(https://books.google.co.jp/)も、Google内で提供している、書籍の全文検索サービスで、書籍内の全文を対象に検索でき、表示された書籍の内容の一部が無料で表示されるので便利です。

もちろん、近所の書店で聞いてみるのもおすすめです。読書に造詣が深いスタッフの方や書店歴の長いベテラン店員さんに出会えれば、断片的なキーワードでもアドバイスをくれることでしょう。

 

検索テクニックを駆使する
一部あやふやな部分がある場合には「あいまい検索」を使うと良いでしょう。

あいまい検索は、類似の語句や文章をかなり柔軟に解釈して検索できる検索で類似検索とも呼ばれます。 完全一致検索とは違い、キーワードや質問文などが完全に一致しなくても検索できるのでこのようなケースに便利な方法です。あいまい検索のやり方は、キーワードのあいまいな部分を半角のアスタリスク「*」に置き換えて入力するだけ。

キーワードが「探偵小説」「学園物語」など、一般的すぎてなかなか絞り込めない場合はマイナス検索も活用しましょう。除外したいキーワードのすぐ前に半角のマイナス記号「-」を入力して検索すれば良いですよ。

 

検索型サイトやサービスを使う
作品名も著者名も出版社も思い出せない本を探している人というのは実はかなり多く、専用のWebサイトやサービスもたくさんあるので一部紹介します。

愛知学院大学文学部日本文化学科の神山重彦名誉教授による、愛知学院大学図書館内のサービス「物語要素事典」は物語の内容やテーマから映画・小説といった作品を調べられます。


復刊ドットコム相談室)も便利です。本の表紙やデザインや内容などはおぼろげに覚えているが、本のタイトルが思い出せない方には「本のタイトルが知りたい」に投稿すると誰か答えてくれる可能性があります。

 

「連想検索」を使う
連想検索とは、文書と文書の言葉の重なり具合をもとに、検索条件に近い文書を探し出してくれる検索技術のことです。

国立情報学研究所が運営する本、作品、人物の検索 サービス「Webcat Plus」では江戸の和本から最近の新刊書まで、多彩な本の情報を収集していて、本の中の短編小説やエッセイ、戦国武将から現代の流行作家まで、人物を手がかりに本の情報を探すこともできます。

全国の大学図書館が所蔵する図書や雑誌などの資料から探せるので、 欲しい分野に関連する資料を幅広く探したい場合にも便利なサービスです。

また、MBJの総合電子書籍サイト「どこでも読書」には、「知の泉 連想検索」というサービスがあります。本の特徴となる単語の重なり具合を元に、近い本を探し出す技術を使っており、思いついた文章での検索も可能になり、一致検索ではできない本の検索が可能です。2021年に開始されたサービスですが、書籍の本文からキーワードを拾っているので書誌の事前データ登録の手間なく、精度の高い検索が可能になりました。

タイトルを忘れた本の探し方(図書館編)

本棚

実は本を探すなら、図書館のレファレンスサービスを利用するのが一番王道ではあるのです。本と人とを繋ぐレファレンスの利用方法を詳しく紹介します。

 

レファレンスサービスの利用法
レファレンス(Reference)は「図書館などで、利用者の問い合わせに応じ、図書の照会や検索をする業務」のことです。図書館の司書さんに情報探しのお手伝いをお願いできるサービスです。最寄りの図書館に出向いてお願いすれば良いのですが、Web経由でもわかっているキーワードを書いてお願いすると答えてもらえます。

即日回答がもらえる場合もありますが、1、2週間程度の時間を要することもあります。

ちなみに公共図書館でのレファレンスサービスをテーマにしたマンガ『夜明けの図書館』(全7巻)は全国の図書館司書、書店員の間で話題になり、2020年には文化庁メディア芸術祭の審査委員会推薦作品にも選ばれています。本と人を繋げるレファレンスサービスの醍醐味や魅力がよく伝わるマンガでおすすめです。

 

国会図書館の検索ページを利用する
地元の図書館では蔵書が限られているので、出会えないことも多々あります。そんな時は「国立国会図書館サーチ」を使えば、国立国会図書館はもちろん、全国の公共図書館や、大学図書館、専門図書館まで、また、学術研究機関などが提供する資料やデジタルコンテンツも統合的に検索できます。ここで見つからない本はまずないでしょう。

ただし、こちらは膨大な量。そのため、ジャンル別に本の探し方も丁寧な案内があり、「国会国立図書館のリサーチ・ナビ」を使いこなせればかなりの情報が得られます。

児童書の探し方も細かい情報があり、ずいぶんと助けられました。

人に助けてもらって探してもらう

本棚

以上、さまざまな探し方をお伝えしてきましたが、結局、有効なキーワードを思い出せなければ、検索できず、誰かに聞くしかありません。親や当時の友人の力を借りるのも良いでしょう。人にお願いして探す方法をさらに紹介します。 


WebのQ&AサービスやSNSを利用
この本、探しています!(本の探偵団)」というBBS(掲示板サービス)があります。毎日のように本を探す相談が書き込まれ、「これでしょうか?」と教えてくれる回答に大感激するお礼コメントが付いている様子が見受けられます。

また、「あやふや文庫 」ではタイトルが思い出せない本や漫画を、Twitterのフォロワーと一緒に記憶を補完し、探し出すお手伝いをしていて人気があります。4年間で紹介したあやふや本は7614件(解決した本は4854件)。記憶のあいまいな本と再会したい時に利用されているようです。オープン翌日時点で、分刻みでDMが届き、大混雑してしばらく受付を停止したほど需要があったとか。

ほかにもYahoo!知恵袋やSNSなどで質問を書くと答えてくれる場合もあるでしょう。

 

探してもらうにもコツがある
当たり前ですが、人にものを頼む時の態度も大事です。

本を探してもらうなら、どうしてもその本が読みたい、その感動を思い出したい、それで自分が救われる気がするなど、情熱を伝えることが重要です。

つい、助けてあげたくなる感じを出す……というとあざとい印象を持ってしまうかもしれませんが、本が好きという情熱が伝われば、同じ本好きなら自分の過去の知識や記憶を総動員して助けてあげたいと思うのではないでしょうか。 

 

探していた本に出会えた時の喜びはすごい
私も、さまざまな方法を使って検索して、尋ねていたのですが見つけられなかった本を、Twitter(現:X)で何冊か見つけていただいたことがあります。

『はじめてのおこづかい』(生源寺美子/フォア文庫)、『おかあさんのつうしんぼ』(宮川ひろ/偕成社文庫)です。どちらも小学生の女の子が主人公で、読んだ当時に子どもの心情をよく表現した描写が心に残っていたのですが、なかなかタイトルが思い出せず。大人になって、子どもの心を忘れてしまった今、どうしても読みたいという思いにかられ、思い出せる限りの情報を書き出してみました。

フォロワーさんに「この本では?」と教えていただいた際は本当に感謝しました。絶版になっていたため、図書館から除籍になった本などをようやく古本で手に入れて歓喜しました。

本を探していた際は「世の中にはこんなに本を思い出せず、探している人がいるのか」という同士の発見と共感にまず静かな感動がありました。何かの答えを求めて巡礼をしているような感覚とでもいいますか。「あの文章が織りなす風景をもう一度味わいたい」と旅をしている仲間に遭遇するような喜びです。

記憶をたどる瞑想のような時間や検索の冒険感、探偵ごっこのような気持ち、そして見つかった時の感動と言ったら!

子どもの頃の記憶が一気に鮮明になり、本を読んでいた教室の匂いや机の肌触りまで思い出せるタイムスリップ感と、その頃はピンとこなかった大人の事情や背景がわかってより感動が色濃くなり、1行1行が涙を誘うのです。実に重みのある、忘れられない読書体験にもなりました。

記憶のあやふやの答え合わせも醍醐味

本が見つかったら、答え合わせをして、自分の記憶のあいまいさやあやふやさを知るのもまた醍醐味です。かなり思い込みが激しいこともあれば、予想以上に正確なこともあるでしょう。

大人になり、記憶が微かに淡いものになってしまっても、ふとしたことで、子ども心に残った文章や情景がよみがえる経験。

幼少期の読書体験が人生に彩りを与えてくれていたことに気づく、玉手箱を開けるような感覚をまた味わってみたいものです。