昔から気が付くとアンパンマンではなくばいきんまんを応援していた私。

何となくそんなことを言ったら、変わり者と言われてしまうかな?と思い、長年公言できずにいました。しかし、アンパンマンを卒業してからも心の中で悪役をひそかに応援してしまう幼児期~思春期を過ごします。

近年になってインターネットが普及し、それぞれが自分の考えを気軽に発信できるようになったとき、私と同じ悪役好きが多いことを知りました。仲間が意外と多くいたことに嬉しさを感じるとともに、なぜこんなにも悪役に惹かれるのだろう?と考えるように。この記事で、そんな悪役好きの心理を掘り下げてみました。

誰がなんと言っても、主役よりも悪役が好き!

仮面を持った男性

主役より悪役が好き。どうして悪役にこんなにも惹かれてしまうのでしょうか。基本的にヒーローものの作品は、視聴者や読者が主人公に感情移入しやすいように描かれていて、強い悪役を倒すことによってカタルシスを得るものが多い傾向です。

ですから作品の中で、主人公の方が悪役よりも心理描写や幼少期などについて詳しく掘り下げられているし、弱さやコミカルな一面まで描かれていたりいます。だからこそ主人公をまず好きになるというのが自然な流れだといえます。

また、読者が目にする時間は圧倒的に悪役より主人公の方が長いといえます。マーケティング業界や恋愛心理学では、頻繁に会ったり目にするものほど好感度がアップするという「ザイオンス効果」があるとされています。そう、頻繁にCMで目にする商品を購入したくなったり、定期的に顔を合わせる営業マンや業務担当者に信頼感を持ったりするあの有名な心理効果です。

そうであれば、やはり悪役でなく、主役を好きになるのが必然です。でも私は悪役好き。ザイオンス効果は私にだけ効力を発揮しないのでしょうか……。いや、主人公を好きになる自然な流れに逆らうだけの大きな魅力が悪役にはあるはずです。私なりになぜ悪役を好きになるのかその理由を分析してみました。

 

思わず耳を傾けたくなる悪役の主義主張。

多くの作品の中で、主人公は「正義」で悪役は「悪」という分かりやすい対立があります。しかし、正論や正義というのは元々社会の中、そして私たちの心の中に共通してあるものであり、すでに私たちは十分理解している事柄です。

それに対して悪役の主義主張というのは、彼らの特殊な過去や特殊な立場の中から来るものです。つまり、私にとって悪役の主義主張は「新しい情報、新しい考え方」ということになります。

人は今までの自分にはない考え方に注目します。正論を真っ向否定する評論家、斬新な芸術家、ユニークなセンスのエッセイイスト……みなが彼らに注目します。同じような理由で、今の自分が持っていない情報・考え方だからこそ、悪役の主張に思わず耳を傾けてしまうのではないでしょうか。素直に耳を傾けてしまうぶん、かえって主人公よりその主義主張が理解でき、シンパシーを感じるのかもしれません。

 

悪役のほうがポテンシャルは上だよね

1983年生まれの私が人生最初に応援した悪役は「ばいきんまん」、2番目に応援した悪役はスーパーマリオの「クッパ」でした。彼らには主人公のアンパンマンやマリオが持っていない頭脳と科学技術能力を持っています。

たとえばばいきんまんは、作品中でロボット、光線銃、UFO(しばしば手が生えていて巨大ハンマーなどの武器を自在に操る)などの優れた武器を開発する頭脳と技術を持っています。クッパも多くの部下を従える大王ですから、経済力に物を言わせて高度な防衛機能を備えた巨大な城をいくつも所有しています。

つまり、主人公より明らかに優れたところがあるのです。そして、頭脳や科学技術は一夜にして得られるものではありません。目的を達成するべく、その悪役が長い年月をかけて会得してきたものといえるでしょう。悪役の圧倒的な能力の裏に、日々地道に努力してきたという背景が垣間見れることで、ますます悪役が魅力的に見えてくるのです。

また、悪役の努力している姿や葛藤している姿は、ほとんどの場合毎回描かれません。物語を盛り上げるためにそういったシーンが描かれたとしても、主人公に比べたらほんのわずかであるはずです。したがって悪役が努力をしている姿を私たちは想像することはできますが、作品中で見ることはほとんどありません。ですから、私たちが目にする悪役は常に完璧で、自信たっぷりで、冷酷非道でいつもかっこいいキャラクターなのです。

 

ふと見せる優しさや弱さに萌える

100%悪役というキャラクターは、あまりいないかもしれません。悪役の多くはどこかに弱さや優しさ、辛い過去などを持っています。またおちゃめな面やどこか憎めないユニークな面を持った悪役もいます。

私は冷酷非道な悪役を見ると、心のどこかでやさしさの一片、人間らしさの一片を探してしまいます。自分と全く異なる人物を見たとき、自分との共通性を発見して相手を自分の理解の範疇に落とし込みたいという、人間の防御本能とも言えるかもしれませんね。

悪役の冷酷非道さとたまにみせるその優しさのギャップがあればあるほど「萌えポイント」となり、私を惹きつけて止まないのです。

 

正義って本当に一つ?一辺倒な”正義”への疑問

正義は一つではありません。例えば昔話の桃太郎だって、鬼からしたら桃太郎は立派な侵略者です。視点を変えることで、正義と悪は簡単に入れ替わってしまうことは多々あります。

2006年放映の蛙男商会によるテレビアニメ「秘密結社鷹の爪」は、通常悪役であるはずのキャラクターを主役にしたことで、正義の味方の「デラックスファイター」が悪役のように感じられる新鮮なギャグ作品となりました。

「正義は一つ」「正義は絶対」という概念自体、一昔前のものなのかもしれません。ダイバーシティが叫ばれる現代においては、それぞれの価値観が尊重されています。そういった意味では、世の中が悪役にやっと追いついたといえるでしょう。

怖い?面白い?好きな悪役ベスト8

たくさんの仮面

ここからは私の好きな悪役を紹介していきます。

一口に悪役といっても、怖い悪役から面白くて愛くるしい悪役まで幅広くいます。ここではなるべく皆さんが見たことがあるであろうメジャーな作品から選んでみました。

 

第7位 クッパ(スーパーマリオシリーズ)

クッパはスーパーマリオシリーズに登場するキャラクターです。完璧な防衛設備を備えた巨大な城を持ち、多くの部下を従える大王です。スーパーマリオブラザーズシリーズが発売されたころは、お約束のようにピーチ姫をさらうただの悪役でした。

より悪役としてのクッパに深みが増したのが、1996年発売のスーパーマリオRPGです。クッパがマリオの味方になる?という衝撃のキャッチフレーズで販売されたこのソフトでは、コミカルで愛らしいクッパが登場します。因縁のライバルでありながらマリオに協力せざるを得ない葛藤が表現されており、ただの悪役でありながら、キャラクター性が確立した瞬間といえるでしょう。その後もクッパはマリオと一緒にレースをしたりと、ただの悪役ではない重要なキャラクターとなっていきます。

 

第6位 碇ゲントウ(新世紀エヴァンゲリオン)

碇ゲンドウは新世紀エヴァンゲリオンに登場するキャラクターで、主人公の碇シンジの父親です。

冷酷な司令官ですが、実際の彼はただの一人の未熟な父親です。子どもであるシンジについて、「親としての愛情を覚えたことはなく、むしろユイの愛情を奪った存在として憎悪の念すら抱いていた」と公言するなど、子どもよりも消滅した妻に執着しています。

すべては、妻に再会するため。エヴァンゲリオンの壮大な世界観と、この小さくて人間臭い強い執着心のコントラストの対比が人間とは何かを考えさせてくれます。

 

第5位 夜神 月(DEATH NOTE)

夜神月は主人公にして悪役(アンチヒーロー)です。結果的にDEATH NOTEの力によって冷酷な人間となってしまいましたが、当初は悪を嫌う正義感の強い青年でした。

夜神月は外見も頭もよく、家も裕福で一見するとすべてに恵まれた人物のように描かれています。しかし、元々の彼が完璧な主人公であればあるほど、その彼を残忍な殺人者にしてしまうDEATH NOTEの恐ろしさが引き立ちます。いや、もしかしたらDEATH NOTEが彼の中に眠っていた残虐性を呼び覚ましてしまったのかもしれません。少々独善的ではありますが、正義感の強い主人公が、だんだんと血も涙もない殺人鬼に変わっていく様は感慨深いものがあります。

 

第4位 志々雄真実(るろうに剣心)

志々雄真実はるろうに剣心に出てくるキャラクターで、全身包帯に巻かれた姿が強烈な印象です。モデルは新選組の初代局長の芹沢鴨といわれていますが、確かに破天荒でカリスマ性のある点は似ているかもしれません。

「所詮この世は弱肉強食。強ければ生き、弱ければ死ぬ」、「生まれがどーのこーのじゃねえ。お前が弱いから悪いんだ」……志々雄真実には読者を惹きつける名言が数多くあります。この作品は江戸から明治時代の混乱の世が舞台ですから、弱肉強食の世界で強さを追求していく彼の生き様は、非常に説得力があるように感じます。

 

第3位 シャア・アズナブル(機動戦士ガンダム)

言わずと知れた有名な悪役、機動戦士ガンダムのシャア・アズナブルです。機動戦士ガンダムの放映は私の生まれる前ですが、ロボットアニメといえば子供向けの勧善懲悪ものが当たり前だった時代に、「敵には敵の主張がある」ロボットアニメを作ったその勇気に感動すら覚えます。

またビジュアル的にもキャラクター的にも、主人公アムロ・レイよりシャアの方がかっこよく描かれています。主役は勇敢でかっこいいという固定概念を外して、人間味を出したことで、より2人のコントラストが引き立つようになっています。

 

第2位 フリーザ(ドラゴンボールZ)

見た目の特殊さや性格の残忍さに反して言葉遣いが丁寧なフリーザ。その丁寧な物言いからかえってその残忍さがあぶり出されるキャラクターです。昨今「自己肯定感」というワードが注目されていますが、フリーザは自己肯定感の塊といえます。彼のような生き方がうらやましいという人もいるのではないでしょうか。

最近ではフリーザは「理想の上司」とも言われています。統率力が高いフリーザは、部下を種族や出身で差別しない「完全実力主義者」で、さらに戦闘の際は自ら最前線で指揮を執るなど「超現場主義者」でもあります。ドラゴンボールに登場する悪役の中でも、最も好きな悪役です。

 

第1位 ばいきんまん(アンパンマンシリーズ)

現在のアラフォー世代が、初めて認識する悪役がばいきんまんではないでしょうか。圧倒的な頭脳と科学力を持ち、不屈の精神でアンパンマンに対峙するばいきんまんは、幼い私にとってかっこいいヒーローでした。よく考えるとばいきんまんはそこまで悪いことをしていないこともあり(食べ物関係のゲストキャラクターを独り占めしたいなど)、逆にばいきんまんに同情してしまうこともあったくらいです。

もともとバイキンが「生きる」ということは、アンパンマンにとって「侵略(腐敗)」を意味します。つまり2人は元々共存が難しい関係性なのです。バイキンは人にとって有害な働きをする菌類全般(=嫌われ者)を指しますが、人に病気をもたらすバイキン(病原菌)であっても、人の役に立つこともあるのです。たとえば、食中毒を引き起こすことで有名なサルモネラ菌は、化学物質の遺伝毒性を調べるエームス試験に使用されたり、近年ではがん治療に応用するための研究もなされています。見方を変えれば、敵は味方にもなりうるのです。

人の役に立つ有用菌か、人に害をなすバイキンか、その線引きは人間が勝手に決めたことですし、その引かれた線はしばしば変化します。私がばいきんまんを応援したくなるのは、アンパンマンという作品の中に、人間の傲慢さを感じるからかもしれません。

悪役はもっと報われるべき!悪役を主役にする方法を考えてみた。

チェス

悪役はもっと報われるべきです。

ポテンシャルが高く、弛まぬ努力を続ける彼らが正義の味方に勝つことがあってもいいのではないでしょうか。

悪役の高笑いが見てみたい。

悪役が世界征服するさまを見てみたい。

主人公が負けて悔しそうな顔をするところを見てみたい……

私はどうしてもそんな風に考えてしまうのです。ここからは私なりにどうしたら悪役が報われるのかを妄想してみました。どうぞ最後までお付き合いください。

 

私の考えた「悪役を主役にするためのストラテジー」

悪役はいつも孤独に戦いがちです。自分の過去や心の内をもっとオープンにしたら、支持者はもっと増えそうなのに……。悪役はもっと自分たちの主義主張をアピールしていくべきだと考えます。悪も、マジョリティになれば正義になることもあるのですから。

主人公を倒すための秘密兵器に関しては、クラウドファンディングで支持者から集めたらよいのではないでしょうか。自分の主義主張や過去をさらけ出すことで、支持者からのまとまった資金調達が期待できます。

そして、多くの悪役が口にする「世界征服」という目標。一般的なヒーローもののアニメや漫画では、世界征服をもくろむ悪役とそれを阻止しようとする正義の味方の構図となっています。しかし、悪役が世界征服をしたとしても、今よりいい世界になるのであれば賛同する人もいるかもしれません。

また、頭脳明晰な悪役ですから、より支持者を増やすような政策を考えるのは大得意なはず。ほんの少しだけ、悪役の「世界征服計画」を平和的・民主的にアレンジするだけで、支持者は大幅に増えるでしょう。それを選挙公約に盛り込み、世界中で構成員が正々堂々と選挙に出馬したら、意外と合法的に世界征服ができるのではないでしょうか。

 

悪役よ!”正義の味方”に負けるな!

世の中には魅力的な悪役がたくさんいます。彼らは主人公よりも圧倒的な強さや科学技術力を持っていることも少なくありません。そんな彼らの努力が実って、主人公がコテンパンにやられるところを見てみたい!主人公の努力は実るのに、悪役の努力が実らないなんてフェアじゃありません。いや、正義を背負う主人公、それって本当に「正義」なのでしょうか?

悪役よ!”正義の味方”なんかに負けるな!