美術の教員免許を持ち、アートに関連する連載も手掛けているお笑い芸人・リリー。そんな芸人界きってのアート偏愛者である彼が、ニッチな画家に注目し、熱量とユーモアを交えながらその魅力を語り尽くす連載企画。初回は、19世紀末から20世紀初頭にかけて活躍したフランスの素朴派の画家、アンリ・ルソーに迫る。
芸人として活躍している今でもアートは自分にとって欠かせない存在。
絵が下手なのに、天才たちが憧れる画家!?
はじめまして、吉本で漫才をさせていただいている見取り図・リリーという者です。僕は一応、美術の教員免許を持っていまして、アートという存在が大好きなんです。勝手にこの場所をお借りして思いを文字にさせていただこうと思います。お時間とお気持ちが許しましたらお付き合い下さい!
世界には素晴らしいアート作品が無数にあります。《モナリザ》、《ゲルニカ》、《ひまわり》、《睡蓮》、《ラス・メリーナス》、《夜警》、《アダムの創造》など……。言い出せばきりがない!
そして画家をあげだすと、ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエロ、ピカソ、ゴッホ、フェルメール、マティス、ルーベンス 、レンブラント、ベラスケス、エル・グレコ、ターナー、ヤン・ファン・エイク、ブリューゲル、デューラー、ボス……。もう止まりません。
今叙述した作品と画家に共通していることがあるのですがわかりますでしょうか?
そらそうだろと思ってください。答えは、みんな「絵が上手い」んです!そら歴史に残るような画家なんだから、上手くて当然だという皆様の声がいたいほど聞こえてきます。どうも雑魚メンタリストです。
大体どの画家も子供の頃から神童と呼ばれるような絵の天才で、みたいなエピソードを聞きますよね、ピカソなんて14歳の時の絵がすでに世界最高峰の技術だと言われています。
自分で描いた作品。描くものは人物や抽象画など様々。
ただその「上手さ」を超越した存在がいるのです!その画家は、アンリ・ルソー。
アートに興味のある人はもちろん知っている画家ですが、普段アートに触れることのない人は名前も聞いたことがないかもしれません。メジャーとマイナーのちょうど間というか。そうですね芸人で例えますと…、いや誰の名前を出しても怒られそうなのでやめときます。自分たちの名前を出すのも悔しいですし!
このルソーという人、素人の僕が言ってしまいますが絵が下手なんです!!ただピカソや藤田嗣治など天才達が憧れる画家!なぁぜなぁぜ?ですぎたマネをしてしまいすみません。
このルソーなんですが、1844年フランスに生まれます。10代、20代の頃は絵を描かず、結構ぶっ飛んだ人でして窃盗で逮捕されたこともあるそうです!法律事務所や税関で働いて、残っている初めての絵画作品は35歳の時のもので、絵を描き出したのが遅い!
「なんで今まで描いてないの?」とか、「なんで35歳から行けると思った?」とか、タイムマシンがあればポケトークを片手にルソーに会いに行きたい!
かわいい人で好きな物を好きなように描くんです。飛行機とか国旗とか子供が好きそうなものを、絵が上手くないおじさんが自信満々に描く。それもルソーアートの絶妙さだと思うんです。どれだけピカソが絵の技術を習得しようができない表現ですよね!ピカソは子供のような絵を描きたいと言っているんですが、それを1番できているのがルソーなのかも!
ピュアな魔性のおじさん、それがルソー
《私自身、肖像=風景》1890年/出典:『アート・ギャラリー 現代世界の美術 14 ルソー』(集英社)
長々と書いてきましたが、ルソーの絵を観てください!
《私自身、肖像=風景》なんて正直下手ですよね。ここからめちゃくちゃ上手くなっていくみたいなシンデレラストーリーなんてなく、このくらいの上手さがずっとです!
この絵にルソーが詰まっています!ルソーの好きな気球や国旗がかいてあります。そんなことよりいろいろおかしい!真ん中のルソー自身の絵がとりあえずデカいですよね!「左にいる2人とのバランスどういうこと!?」
あと足見てください!「浮いてる…!?」「ほんで雲の中に太陽ない!?」手に持つパレットの角度も地面に垂直だし、違和感を探せと言われれば無限!
ただ、こう思わせてくれる画家ってまじでルソーだけなんですよね。なんかどんどん気になって、いつの間にか好きになってしまっているみたいな…。魔性なんですルソーは!
ルソーは自分のことを偉大な画家だと疑わなかったそうです!偉大な画家だからこそ真ん中にこんなに大きな自分を描いたんだと思うんです。感動というか涙が出そうになる。叩かれないようにとか出る杭にならないようにとか考えている小さい僕に比べて、自分を信じきるルソー。こんな人になりたいと思う!
ルソーはちょいちょい嘘をつくことでも有名で、ジャングルの絵をたくさん描いているんですが、「軍役でジャングルに行った時のことを思い出して描いてる」的なことを言ってるけど本当は1秒たりともジャングルに行ってなかったり、「昔、こういう子と付き合ったから絵にした」的なことを言うけどそんな子いなかったりとか…。
それだけ聞けば、やばいおっさん!!ただ、こんな純粋に自分を信じて絵に向かうおじさんは、思い込んで嘘が自分の中で本当のことになっているんだと思うんです。
《飢えたライオン》1905年頃(上)、《ライオンの食事》1907年頃(下)/出典:『アート・ギャラリー 現代世界の美術 14 ルソー』(集英社)
それが功を奏してなのか“ジャングルにいるはずのないライオン”を描いていたり、おそらく狙っていないのに“天然でシュルレアリスム的な作品”を描いているんです!そういう所もピカソなどの次のフェーズにいこうとしているアーティストのアンテナに反応したんじゃないかなー。
ルソーという存在は同じでも、時代や周りの環境がルソーに惹きつけられていったんだと思うんです!運に恵まれてる!
けどルソーは、「俺は間違っていなかった。俺の実力のおかげだ」って言いながら死んでいったと思うんですよ!
「もう究極にかっこいいよ」。天才の画家だらけですが、あなたは間違いなくスペシャルです。
普通の人ならルソーになりたいなんて思わないだろうけど、人の目を気にしたり、常識に縛られたり、人の足をひっぱったり、こんな世知辛い世の中にはルソーが必要なんです!
何回も言います!
俺はルソーになりたい!!