美術の教員免許を持ち、アートに関連する連載も手掛けているお笑い芸人・リリー。そんな芸人界きってのアート偏愛者である彼が、ニッチな画家に注目し、熱量とユーモアを交えながらその魅力を語り尽くす連載企画。4回目は、色鮮やかでリアルな花や鳥などを描いた「花鳥画」で知られる日本人画家・伊藤若冲の後編。後編では、リリーにとって憧れの存在である彼の作品について、熱量マシマシで語り尽くす。

 

相国寺のために描いた彼の代表作

番組の企画で描いた相方の絵

はじめまして、吉本で漫才をさせていただいてる見取り図・リリーという者です。僕は一応、美術の教員免許を持っていまして、少しだけアートに傾倒して生きてまいりました。前回、伊藤若冲という画家の魅力を語らせていただきましたので、今回は僕の思う若冲の作品にスポットライトを当ててみたいと思います!

若冲はすごくたくさんの作品を残しているのですが、若冲といえばこれでしょう!

「動植綵絵」!!!

出典:『伊藤若冲大全 京都国立博物館編』(小学館)

30作品からなる相国寺というお寺のために描いた作品。若冲はこの作品について、「名声なんていらずただ大好きなお世話になっている相国寺のために描く!」的なことを言ってるんです。
若冲は元からボンボンで人に頼まれた作品を描かないので、ただただ前のめりに自分のフルパワーで好きなように描いた作品なんです。若冲のベストアルバムみたいなもん!!
気持ちいいのが、お金をかけまくっていて到底そこらへんの画家じゃ使えないような高価な画材を使って、
「最高の画材と最高の技術で最高の作品作ったらー」感!!
小細工なしのフルパワー右ストレート感!!
全体通して言えるのは、めちゃくちゃ細かいんです。線の細やかさ、色の陰影の丁寧さ、それなのに修正したり消した跡が一切ないらしいんですよ、全部一発OK!!技術の高さがうかがえます!しかもそれが国宝ですからね!若冲恐るべしです!

30作品もあるんで全部は紹介できませんし、僕も全部が心打たれたわけじゃないんですが、本当に若冲かっけー、こういう所好きーと思ったのを勝手ながら紹介させてください。

 

こんな日本画見たことない!!

《蓮池遊魚図》(1765年)/出典:『伊藤若冲大全 京都国立博物館編』(小学館)

まず《蓮池遊魚図》なんですけど、すごいんです。1つ1つの物の観る角度が違うんです!上から見てる蓮、横から見てる蓮、花の角度も違う。お分かりでしょうか!?
そうまさにピカソなどが行き着いたキュビスムなんです!!しかも200年以上前に日本の画家がですよ!!すごすぎるて若冲!!
西洋美術史では大まかに、セザンヌの影響をうけてピカソがキュビスムにいたってるわけですが、セザンヌ→ピカソじゃなくて若冲→ピカソかもしれないんですよ!!いやそらピカソが若冲を知っていたかは分かりませんが、ロマンがありますよね!!誇らしいですこれがジャパニーズアートだと胸を張って言いたい!
キュビズムというのは説明むずいけど、1つの物を描く時、正面だけじゃなく裏側や横側もあるよね?ということで色々な角度から見たそのものを1つのキャンバスにいくつも描くという描き方!(詳しくは調べてね!)

まぁたまたまピカソとかぶっただけでしょうと思ったそこのあなた、これを観てください。

《梅花皓月図》(1761年)/出典:『伊藤若冲大全 京都国立博物館編』(小学館)

うねった梅ごしに満月が見えている作品なんです。一見普通に渋い絵だなぁくらいなんですが、月と梅が重なっている所をよく観ると、点画で白いハイライトのようなものが入っています。これは完全に専門家でもない僕の独断と偏見なんですが、光を描こうとしてるんです。
そうです!!印象派より100年以上も前に光を描くことに挑戦してるんです!!すげぇよ!すごすぎるよ!!これに行き着いた時は鳥肌もんでした!1人の日本画家が、キュビスムと印象派のやろうとしたことをもうすでにやってたんだって!!
いやなんの証拠もないけど、俺はそう信じる!!そういう所に憧れる!!だって、前回も書いたけど、お金もあって他のことに興味なく趣味で絵が好きだからってだけで、ここまで突き詰めて、どんだけ幸せ者なんですか!!!ほんでそれが国宝になるて!!!
超有名な《群鶏図》などは詳しい人がたくさん教えてくれてるんでググってください!それももちろんすばらしい!!

《棕櫚雄鶏図》(1765年)/出典:『伊藤若冲大全 京都国立博物館編』(小学館)

けど俺が好きなのが《棕櫚雄鶏図》。
鶏が睨み合っているんです、どういうシチュエーションか分かりませんが、おそらくケンカする直前といった所かなと思います。この時点ですでに「おぉっ」と食い入るように観てしまいました。さらに背景がですね、日本画で見たことない植物が生えてるんです。竹とかなら日本画っぽいけど、どうやら南国の植物らしいんです。
こんな日本画見たことない!!おもろっ!
見たことない設定のコントがはじまるみたいな感じっていうか、ワクワクさせてくれる絵です。
こういう挑戦的な所も好き!!!あつくなってすいません!もう少しだけ語らせてください!!

 

若冲と所ジョージの共通点!?

《牡丹小禽図》(1765年)/出典:『伊藤若冲大全 京都国立博物館編』(小学館)

《牡丹小禽図》も好きなんですよねー、まったく余白がないんです! 
日本画って余白を楽しむ部分もあると思うんです、その余白を想像して感じ取るみたいな。これはみっちり!!ただまったく圧迫感もなく、なんならもっとほしい!!モネの《睡蓮》や、ミケランジェロの《最後の審判》みたいに、モチーフは多いけど気持ちいいんです!!
こんな日本画も観たことなかった!
もう勝手に言います!!
「若冲は、この時点でピカソにもモネにもミケランジェロにも肩を並べている!!」
勝手に俺が表彰します!!
もちろん鶏や植物の繊細な描き方もすごいんですが、若冲のマインドが最高ですよね。何事にも楽しんでチャレンジしているように見えるんです!それって最高じゃないですか!!自分もそうありたいんですが簡単じゃない!
少しでも若冲マインドに近付きたい!

もう若冲は所ジョージさんです!!世田谷ベースで好きなことに熱中して生きてる感じが若冲と重なるんです!きっと若冲も鶏や好きな物に囲まれて人生を楽しんでいたんでしょうね!いや、さすがに若冲も所さんには勝てないかも!となると、所さんはピカソよりモネよりミケランジェロよりすごいってことか。若冲を通じて所さんの凄さも分かりました。

話が少しそれましたが、俺も若冲や所さんくらい人生楽しみながら成長していきたい、そう思う次第でございます。
地位や名声など関係なく自分の好きなことだけを抽出して形にして国宝になるて、「ずりいよ!」「かっけーよ若冲!!」

また作品に会いに行きます!