「1日300錠、主食はサプリ」という三浦俊彦氏に関する記事の見出しを目にしたとき、全く健康的な感じがしないなと思ったことを覚えている。私は健康食品/サプリメントというものは、健康を求めている人が接種していると誤解をしていたのだ。

三浦氏は健康マニアではなく、超ハードコアな健康食品マニアである。

奇天烈な商品のネーミング、お経のような成分表の羅列、一気飲みする快感に恍惚。
「破壊王DX」通販のエピソードから、健康食品マニアとしての変遷に至るまでを今回の記事では語っていただいた。

 

破壊王DX≠破壊皇帝エナジー

 通販でモメた経験は誰にでもあるだろう。注文品とは違うものが送られてきたとか。実用品ではそういうことがありがちだ。なぜ実用品で多いのか。私の経験を聞いてほしい。
 

 Amazonで「破壊王DX」という健康食品を注文した。いわゆる強精剤系のサプリメントで、「超力精」とか「金蛇精」、「奮煌王」「活気源」などなど、漢字を並べて効果を感じさせようとするあの系統だ。

 

破壊王DX

 そういうのが好きでパッケージを集めている私は、初めて見る漢字の組み合わせ「破壊王DX」を見つけ、心躍らせて注文した。ところが届いたのは「破壊皇帝エナジー」という製品だった。「破壊王DX」のパッケージ写真とは違うデザインだが、内容は同じ60粒。「破壊皇帝エナジー」の商品ページを見ると「破壊王DX」よりわずかに高価格だったし、こちらの文字面もツボだったのでクレームを入れず、同じ出品者にもう一度「破壊王DX」を注文した。単なる間違いだろうから、今度は正しい商品を送ってくるはずと思ったのだ。
 

 ところがまた同じ「破壊皇帝エナジー」が送られてきた。さすがに納得できず、交換を求めた。ところが出品者からの返信は「間違いではない」と。そんなはずはない、販売ページに載っている商品と違うではないか、写真通りのものを送れ、と再度連絡すると、返信はまたしても「間違っていない」というのである! 今度は詳しく説明してあった。「破壊皇帝エナジー」は「破壊王DX」の後続商品で、成分がレベルアップしている。いわば上位互換品である。同一価格で上位品を送ったのだから、問題ないはずだ、と。

 

破壊皇帝ENERGY

 成分表を見るとたしかに――馬睾丸エキス、アカガウクルア、L-シトルリン、マカ末、高麗ニンジン末、ガラナ末、食用酵母、カンカニクジュヨウエキス末、ニンニク末、トナカイ角末、ムイラプアマ(地上部)エキス末、サソリ末、クローブ末、牡蠣肉エキス、セルロース、ステアリン酸カルシウム、D-ソルビトール、微粒酸化ケイ素、L-アルギニン、被包材:ゼラチン(豚由来)、着色料(カラメル)――「破壊皇帝エナジー」の方が成分の種類が多く、含有量も多くなっている。しかし私の目当ては成分や効能よりも文字なので、改めて正しい商品を送れと要求した。なかなか納得してもらえず、五往復ほど押し問答して根気よく説明したあげく、やっと交換してもらえたのだった。
 

 出品者からしてみれば、この種のクレームは想定外だったのだろう。強精剤系に限らず、健康食品は実用品である。わざわざ効能に劣る旧製品に取り換えろとゴネるユーザなんてのは、担当者の目にはモンスタークレイマーとして映ったかもしれない。謝罪の言葉が結局なかったことからもむこうの戸惑いは察せられる。しかし注文通りに送るのが基本のはず。Amazon商品ページに新製品「破壊皇帝エナジー」が未掲載というならまだしも、二つの製品が別項目として載っていたのだから、ユーザの選択の自由を尊重しろという話だ。だがそんな当然のことを守らなくてよいと判断されるほどに、健康食品の「上位互換サービス」は自然なこととされているのだろう。

 

こちらは全壊帝王

 という具合に、「健康食品マニア」という性癖はなかなか理解されにくい。「健康マニア」と間違えられるのだ。健康マニアであれば、「破壊王DX」の代わりに「破壊皇帝エナジー」を何回送ってこられても「ラッキー」と喜ぶだろう。「破壊皇帝エナジー」のページから購入するより割引なのだから。でも健康食品マニアはそうではない。健康よりも健康食品の方が大切だからだ。健康効果ではなく新パッケージのコレクション追加が目的なので、まもなく市場から消えるかもしれない貴重な「破壊王DX」を寄越さないというのは許しがたい罪なのである。

 

健康食品マニア≠健康マニア

 私のサプリ生活歴も45年を超えるが、現在の一日の摂取量を改めて確認してみると――、朝食前〈2粒+ドリンク剤1〉+朝食後〈78粒+粉末3袋+ドリンク剤1〉+食間〈14粒〉+昼食後〈62粒+粉末1袋〉+食間〈14粒+ドリンク剤1〉+夕食後〈47粒+粉末1袋〉+就寝前〈24粒+粉末1袋〉=〈251粒+粉末6袋+ドリンク剤3〉で構成されている。20年近く前に数えたときには1日300粒くらいだったから、やや控えめになっているかもしれない。種類は80を超えるので、成分がかぶってビタミンやミネラルの何かが過剰摂取になっている確率は高い。健康上逆効果ということになりそうだが、そうした負の可能性より、いろんなものを体に取り入れる実感、錠剤を一気飲みする喉越し快感、そして新製品パッケージを収集するミッションを優先するのが健康食品マニアなのである。
 

 健康効果という実用に束縛されないぶん、健康食品マニアは健康マニアより自由である。と思っていた。それだけでなく、健康食品マニアは健康マニアより賢明である。ほとんどの健康食品は効果など無いことを承知しているからだ。そう思っていた。健康食品マニアは一般人より自由かつ賢明であると。
 ただ、どうもそうではなさそうだと最近感じ始めている。長年健康食品マニアをやってきて、自分の中での緩やかな変化に気づきつつあるのだ。しかもたまたまではなく必然的な変化に。具体的には、効果を期待する度合いが徐々に高まってきている。ここ数年にわたり、体の細かい故障が表面化しつつあるのだが――白内障とか坐骨神経痛とか――そういう不具合を何とかしたいという動機が、サプリメント選びの中心にせり出すようになってきた。


 こうなる前触れというか、コスパ重視リピート志向に変わる兆しは当初からあった。新しさ、面白さを幅広く追い求めるマニアスタイルから、安定した品質のサプリを低価格で入手する実用スタイルへと我が意識が徐々に変化してきた。ファンケルやDHCの定期購入で同規格品を大量に取り寄せるスタイルへと移ってきたのである。雑誌裏表紙やアダルト系サイトの怪しげな広告に釣られて新奇なカプセル剤や粉末剤をどんどん仕入れていたのは昔の話。初めての街を訪れるたびに、回り道をしてでも味わいのある薬局に立ち寄っては初見のドリンク剤を漁っていたのも昔の話。そうしたマニア仕草を一切やめたわけではないが、そういった日々の努力を次第に怠るようになり、定期的に届くお決まりの均一品質サプリのセットで満足するようになってしまったのだ。マニアとしては嘆かわしき堕落である。

 

健康効果に開眼して

ミミズエキスが配合されている、ルンブレンSPゴールド

 

  ただ堕落には堕落なりの効用がある。以前は気にしていなかった「確実に効果ある健康食品」への自覚が目覚めたのである。睡眠にはやはりこれだとか。便通に効くサプリはあれとこれであるとか。血液サラサラ系はやはりミミズ粉末であるとか。ミミズと言ってもそのへんにいるフトミミズではなく、品種改良されたルンブルクスルベルスという種類。手のしびれに長年悩まされているという知人に勧めたら、即効で治ったと言っていた。飲み忘れのたびにしびれが復活するので、効果は間違いないと。
 

 私自身が肩こり解消効果を実感できた「冠元顆粒」も一押しだ。実はこれ、サプリというより漢方薬。ちょうどあの「正露丸」と同じように、昔からの同じ処方で複数の会社が販売している由緒正しい代物だ。顆粒タイプの「冠元顆粒」「丹心方」、丸薬タイプの「冠元活血丸」などいくつかの形態で売られているがどれも同成分。

 

冠元活血丸

 

  一日三回、食間に10粒ずつ飲むことですっかり身に付いた独特の鎮静感覚はおそらく、血流改善による血圧低下によるものだろう。
 

 健康食品の話というのは独りよがりになりがちで、いまいち会話に使えなかった。ところが健康効果のネタなら、たいていの人が興味を持ってくれる。おかげで無難な人間関係に恵まれるようになった。健康食品マニア度を下げた甲斐があったというものだ。健康効果の話以上に需要があるのは、逆効果の話である。サプリは金の無駄どころか「実は発癌性あり」などの情報のことである。末梢性神経障害に効くビタミンB12は摂りすぎると癌のリスクが高まるとか。ベータカロチンは摂りすぎなくても癌のリスクを上げるとか。万能の基本サプリであるビタミンCは食い合わせが厳しく、たとえばドリンク剤やコンビニ惣菜に普通に入っている保存料「安息香酸ナトリウム」といっしょに摂ると有毒のベンゼンが生成され白血病の原因になるとか。そんなシリアスな知識群が、昔は頭を素通りしていたのに最近けっこう意識に定着するようになり、知人友人に教えて有難がられるようになった。

 

腸に効くサプリ、癒友輝

 

 まあビタミンCを保存料といっしょに摂るな、なんて現代の食生活では絶対無理なのであるが。発癌性のことを言うなら、山菜、キャベツ、牛乳、わさび、ミントなどほとんどの食材に当てはまるわけであるし。健康効果を気にし始めると健康食品マニアよりもストレスを抱え込むことになるから要注意だ。
 

 それでも「健康効果」という価値観へ我がマニア魂が変換され始めたことで、大袈裟だが「魂の統合」への目覚めが実感されてきたというか。どういうことかというと、私は健康食品以外にもいくつかの部門でコレクターを自認しており、たとえば瞑想音楽CD、モンスター映画DVD、双眼鏡、350ml烏龍茶缶といった諸アイテムをそれぞれ並べて悦に入っているのだが、それらをヒーリング効果の観点で統合する意識が芽生えたのだ。とくに瞑想音楽はもともと『聴くサプリ』といったタイトルで売られているものがあり、「健康」という理念でサプリと音楽を統合するのは自然なことなのだった。

 

三浦氏が最近愛飲しているドリンク剤

 

 いったん統合されれば、健康から次第に離れて「身体」とか「意識」とかに抽象化され高次化されてゆく可能性もある。「変性意識をもたらすことで定評のあるヒマラヤ産マッドハニーを舐めながら、ラエリアンムーブメントの強力瞑想誘導音楽を聴き、幽体離脱してみよう」といった思いつき的疑似オカルト企画を、複数人で我が家の地下室にて試してもみたが、効いたような効かなかったような。

 

ラエルの誘導瞑想CD

 

 私にとってコレクション定位から効果優先へのマニア生活切り替えはまだ準備段階といったところ。もうしばらく実験期間が必要だ。ともあれ……各々孤立していた複数のコレクション生活を「健康」の一語でまとめ上げる、これ意外と盲点な心身活性化のブレイクスルーなのでした。